《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!

白薔薇の筆頭聖女


 どうぞと言えば、赤毛を一つに束ねて編んだものを肩から垂らした少女が遠慮がちに扉を開けて顔を覗かせた。
 グレースの愛すべき頬のそばかすは今日も可愛いと、ユフィリアは柔らかく微笑む。

「この本、《《また》》読んでたんだ」

「……ん?」
「こんなにボロボロになるまで何度も読みこんで。ユフィったら、よほどお気に入りなのね」

 にっこり微笑んだグレースが、文机の上に置かれた一冊の薄い絵本を手に取った。
 四隅の紙が捲れ上がっていて、古びて色褪せかけた表紙には細かい皺が寄っている。

「ぅん……と」

 絵本を開いて眺めるグレースに、ユフィリアはひどく照れくさそうにする。

「ユフィは《《あの筆頭聖女様》》に懐いてたもんね。ほら……これを私たちが小さい頃に読み聞かせてくれていた……って、誰だっけ」

「筆頭聖女のステラ様」
「そうそう、ステラ様っ。この本、ステラ様にもらったんだよね。 アルハンメル国王陛下に所望されて、大聖堂を旅立たれる時にユフィが泣きじゃくったから!」

「……もうっ、それ言わないで? でもおかしいよね。小さい子が読む《《お伽話》》をずっと読んでるなんて」

「ユフィはこのお話が実話だって、信じてるんでしょ?」

 ──権力者に能力を査収されながらも、貧しい者を救い続けた聖女が尊い神力の加護を受け、自由を勝ち取る物語を──。


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