🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
「できたよ」

 ルチオの前に皿とスプーンとケチャップを置いたが、「でも、まだだよ」と制して盛り上がった卵の中央をスプーンで切り裂いた。
 すると、左右に割れて半熟の部分が溢れ出した。

「うゎっ」

 初めて見たせいなのか、ルチオの目が真ん丸になった。

「召し上がれ」

 新しいスプーンを渡すと、口に入れた瞬間、頬が緩んだ。

「おいしいね」

 もう一口食べると更に頬が緩んだので、「ケチャップを付けても美味しいよ」と味変を促した。

「これもいけるね」

 左手の親指を立てて、一粒残らず食べ終えた。

「ユズルは器用だね。だし巻き玉子もオムレツもとても美味しかったよ」

 今までにない笑みがこぼれたので、チャンスと思ってさり気なく話を変えた。

「パンも上手に作るでしょ」

 するとルチオは、ん? というような表情になったが、すぐに笑みが戻った。

「まあね。まあ、師匠が素晴らしいからね」

 冗談ぽく自画自賛したが、弦はその流れを逃さなかった。

「もっとうまくなりたいと思っています」

 ルチオを真剣に見つめると、頷きが返ってきた。

「大丈夫だよ。ユズルだったら上手にパンを焼くことができると思うよ」

「じゃあ」

 しかし、本題を切り出す前にぴしゃりと止められた。

「それとこれとは別だ。ユズルの人生を巻き込むことはできない」

 険しい表情に戻ってしまった。
 頑として意見を曲げないという決意が漲っているように思えた。
 それでもその反応は予想の範囲内だったので、「僕は自分を犠牲にしているんじゃないんです」と居ずまいを正してルチオを正視した。

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