🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
 次の日からルチオの特訓が始まった。

「目指すなら一流を目指さなければならない」

 それは鬼師匠になるという宣言であり、中種つくり、発酵、こね、分割、型入れ、焼き、というすべての工程に渡って妥協なき指導が続いた。

「アントニオを超えろ」

 それは心のどこかにあるアシスタントという甘えを払拭しろということを意味していた。

「ダメだ、ダメだ!」

 作っても作ってもダメ出しをされた。
 完璧でないものは認めないと言われ続けた。
 ルチオの顔にはアメリカの祖父という優しい面影はなく、鬼そのものだった。
 しかしそれが嬉しかった。
 期待をひしひしと感じられたからだ。
 それに充実していた。
 決められたレールの上を走らされるのではなく、自らの意志で選択した道を歩んでいるという確かな手応えを感じていたからだ。
 ギターに夢中になった時以来の高揚感が心と体を揺さぶっていた。

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