🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
 いつものようにネプチューンの泉に立ち寄り、「お魚は獲れそうですか?」と像に声をかけると、「神のみぞ知る」という声が返ってきた。

「あなたが神なのに」

 フローラが笑うと、「忘れておった」と像が頭を掻いた。
 その瞬間、魚が飛び跳ねた。
 不意を突かれた像が慌てて槍を投げたが、突き刺すことはできなかった。

「修練が必要じゃ」

 像の顔が思い切り歪んだ。

 それが余りにも辛そうだったので「豊漁になりますように」と笑みを投げかけると、像は感極まったような声を発した。

「かたじけない」

 深く頭を下げてそのまま動かなくなったので、「またね」と声をかけてその場を離れた。

 まっすぐ歩いて緩い階段を上り、女神像の前に立った。
 豊穣の女神像だった。
 見上げたあと(こうべ)を垂れて今日もいつものようにお願いをした。
 フィレンツェの繁栄とメディチ家末裔の活躍と日本の復興だった。

 フローラが顔を上げると、それを待っていたかのように雲間が開いて光のシャワーが降り注いできた。
 七色の光が女神像を照らすと、声が耳に届いた。

「フローラ、フィレンツェとメディチ家と日本を愛するフローラ、もうすぐあなたの旅が始まります。それは長い旅になることでしょう。そして、あなたに幸運をもたらす旅になることでしょう。そこでは予想もできないようなことが起こりますが、それから逃げてはいけません。受け入れるのです。信じるのです。そうすれば、あなたの未来は愛と希望に満ちた素晴らしいものになるでしょう」

< 152 / 169 >

この作品をシェア

pagetop