🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
       フィレンツェ

 フローラはいつものようにボボリ庭園に向かって歩いていた。
 ピッティ宮殿に隣接したイタリア式庭園が大好きだからだ。
 もちろんメディチ家のために作庭されたのだから当然ではあったが、休みの日になると必ずといっていいほどここに足が向いていた。
 そして、散策しながら500年に渡る歴史に思いを馳せるのが常だった。
 
 工事が始まったのは1549年だった。
 メディチ家当主のコジモ1世が病気がちな妻のためにピッティ宮殿を買い取ると共に、ボボリ庭園の造営に着手したのだ。
 しかし広さが45,000㎡を誇る広大な庭園だけに完成までに70年という期間を要したという。
 それでもそれだけの価値はあった。
 傑作と評価され、ウイーンのシェーンブルンやパリ郊外のヴェルサイユ宮殿の王宮庭園に影響を及ぼしたのだ。
 イタリアの誇りと言っても過言ではなかった。
 その後、1766年に一般公開されると多くの人の憩いの場となり、更に1982年に世界遺産に登録されると世界各地から観光客が多く訪れるようになった。
 ボボリ庭園はフィレンツェにとってなくてはならないものになったのだ。
 
 そんなことを思いながら今日もフローラは公園内の木々や芝生や彫刻などとの会話を楽しんでいた。
 語りかけると必ず返事を貰えるからだ。
 他の人には聞こえないかもしれないが、フローラの耳には彼らの声が聞こえるのだ。
 それはメディチ家の末裔(まつえい)に与えられた特殊な能力かもしれないが、彼らとの会話は無くてはならないものになっていた。

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