このドクターに恋してる
 その後、私は郁巳先生にカフェまで送ってもらった。
 日が沈み、カフェは営業終了間近だった。郁巳先生は車から降りず、そのまま帰っていった。
 店内には二組の客がいたが、そろそろ帰りそうな感じだった。
 私は兄に紅茶を頼み、奥の席に腰を下ろす。

「なんか暗くないか? 振られた?」

 紅茶を運んできた兄が怪訝そうな顔で私の向かい側に座った。 

「は? 人聞きの悪いことを言わないでよ。私が告白したんじゃなくて」
「あっちに告白された?」

 兄がニヤッと笑った。私は目を泳がせて、角砂糖をカップに入れる。

「うん、まあ……そう」
「モテ期到来か?」
「モテ期って、そんな!」
「だって、宇部先生も陽菜のこと、気に入ってそうじゃん。そっちからは何も言われてない?」
「お食事に、誘われてはいるけど」

 私は言いながら、カップに入れたスプーンを回していた。 

「おお、やるね!」

 大げさな反応をする兄を私は睨んだ。

「困っているのに」
「イケメン二人から言い寄られて困ることなんかないだろ? あー、どっちを選んだらいいかわかんないってことだな? 贅沢な悩みだな」
「そうなの。二人とも私にはもったいないくらい素敵な人なんだもん。そんな二人からだなんて、信じられなくて」
「俺も信じられないよ。陽菜のどこがいいんだかなー」

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