このドクターに恋してる
 でも、返事を待つと言ったのは郁巳先生だ。それなのに、こんな聞き方をするなんて……。
 答えになっていない返事してしまう私の気持ちを理解してもらいたい。 
 自分勝手だけれど……。

「陽菜さん」
「えっ?」

 今、下の名前で呼んだ?
 郁巳先生は切羽詰まった様子で、私の手首を掴んだ。私を見つめる瞳が熱くて、胸が高鳴る。
 ドキドキ、ドキドキと心臓の動きが速くなっていった。
 掴まれた手首の脈が郁巳先生に伝わってしまいそう……。

「俺を選んでほしい。頼む」
「えっ、あの……」

 お願いされるとは思わなかった。切ない声を聞き、胸が締めつけられた。
 郁巳先生は私を自分のもとに引き寄せ、ふんわりと抱きしめる。思いがけない行動をされて、息が止まりそうになる。
 私は声を絞り出した。

「あの……、郁巳先生……」
「嫌なら嫌だと言って」
「嫌では、ないです」

 本心だった。
 嫌悪感はまったくなく突き放そうとは思わなかった。それどころか、私を求めてくれる彼に応えたくなる。
 郁巳先生のお願いは続いた。

「俺だけを見てほしい」
「えっ?」
「俺以外の男のことは考えないで……俺だけを見ろよ」

 切なくも、力強い声での欲望だった。
 冷たい風が私の熱くなった頬を冷やす。周囲の木々の揺れる音が聞こえなくなるほど、お互いの心臓の音が鳴り響いていた。
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