このドクターに恋してる
「俺、院長になりたいと思ったことはないですよ」
「わかってる。でも、光一が院長に向いているとも思っていないだろう?」
「向いていなくても院長になるのは光一さんだと思っています。周りが支えれば、なんとかなるのではないでしょうか」
「なんとかなるとは思えない。病院を潰すだけでなく、頑張ってくれているスタッフや信頼してくれている患者に迷惑をかけるんじゃないかと思ってしまうんだ。だから、郁巳に任せたい。ここを守ってくれ」

 院長はすがるような目で郁巳さんを見つめた。
 郁巳さんは一瞬目を見開いたが、視線をテーブルに落とす。
 院長に頼まれたのは初めてなのかもしれない。

「俺もスタッフや患者のことを考えると、ここを守りたいとは思います」
「そうか、じゃあ……」
「でも」

 郁巳さんに同意を得られたと思った院長は目を輝かせたが、郁巳さんの続けようとする言葉に遮られた。
 郁巳さんは顔をゆがませて、声を震わせる。

「怖い……んです。あの二人から……なにか、また言われるような気がして……だから……やっぱり院長には光一さんがいいのではないかと……」
 
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