このドクターに恋してる
 郁巳さんは院長に問うなり、私の隣りに座った。

「郁巳さんこそ、どうしてこちらに?」

 郁巳さんは私の手を握って、息を吐いた。

「昼休みになったから、陽菜に連絡したんだけど、返事がないから受付まで行ったんだ。それで、院長に連れられていったと言われた」
「あ、もう昼休みになったんですんね。あの、連れられたというか、お話があると言われて……私を悲しませてしまったと謝ってくれたんです」
「謝った? それだけのためにここに連れてきたんですか?」

 郁巳さんが視線を院長に戻すと、院長は軽く咳払いする。

「もちろん謝るためにだ。それと、こうなったことの事情を説明した」
「事情って、俺が聞いても言わなかったですよね? どうしていきなり縁談話を持ってくるようになったのか聞いたじゃないですか」
「ああ、そのときは濁してしまって悪い。実は、あれが郁巳をここから追い出そうとしていて……」

 院長が言うあれとは院長の奥さんのことだ。院長は私に話したことを郁巳さんにも話した。
 郁巳さんは静かに話を聞いていたが、院長の話が終わったところでため息をつく。
< 166 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop