このドクターに恋してる
 嬉しいとは言うけれど、郁巳先生の口調は淡々としていて表情も嬉しそうに見えない。
 美結に向けていた表情は柔らかかったから、私の言い方が悪かったのかも。
 それか、いつも言われているからありがたみを感じないとか?
 郁巳先生とは、なかなか打ち解けて話せそうにない。だからと言って、宇部先生と打ち解けているというわけではないが。

 兄が先生たちのグラスにウーロン茶を注ぎ足しながら、話す。

「お医者さんという仕事は大変なことが多いと思いますけど、医者になろうと思ったきっかけはなんですか?」

 兄の質問にどう答えるのかと、私と美久さんと母も先生たちに注目した。
 私も知りたいと思った。
 先に宇部先生が答える。
 
「俺は陽菜ちゃんと似ているかも。子どものときに医療ドラマを見て、優しくてかっこいい医者になりたいと思ったんですよ」

 兄が苦笑した。

「いやいや、陽菜とは全然感じ方が違いますよ。宇部先生みたいに立派に感じていないですよ、こいつは」

 兄があげた顎を私に向ける。私はムッとなって、口を尖らせた。

「私だって、かっこいいお医者さんがいる病院で働くのには自分も医者か看護師になるのがいいのかなと考えたこともあったよ」
「おいおい、まずかっこいい医者に会うのが目的というところが違うだろうに」
「うっ……」
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