このドクターに恋してる
 もしかしたらほかになりたい職業があったけど、親に反対されたとかで話したくないことだったのかもしれない。
 宇部先生が明るく話してくれたから、郁巳先生も話してくれるだろうと思い込んでしまった。
 兄に気遣いがないと言えない……私もだ。私は自分の気遣いのなさを反省して、項垂れる。もっと人の心に寄り添って、言葉は選ばないといけない。

「陽菜ちゃん」

 しょんぼりする私を宇部先生が呼んだ。私は顔を上げて「はい」と返す。
 宇部先生は私の耳もとに顔を寄せて、小声で話した。

「郁巳はちょっと言い方が冷たいところがあるけど、本人も言っていたように気にしなくて大丈夫だよ。ただ医者になったきっかけとか家のことを聞かれるのがあまり好きではないから、触れないようにしたらいいかも」
「わかりました。教えてくれて、ありがとうございます」

 宇部先生は優しく言ってくれたが、知らなかったとはいえ触れられたくないことに触れてしまったと私はまた落ち込んだ。

 落ちた気持ちはなかなか上がらなく、美結に怒られる羽目になった。

「もう! ひなちゃん、ちゃんとやってよー」
「ごめん、ごめん。えっと、ここの部分をクルクルしてください」
「わかりましたぁ」
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