このドクターに恋してる
 以前、医師を目指すことになったきっかけを聞いたときの答えは曖昧だった。父親が医師だったということは関係しているが、嫌々だったということを知られたくなかったのかもしれない。
 ほかの人よりも医師になろうと決断したのが遅かったから言いにくかったようだ。

「医師になろうと気持ちを固めたのは、大学生になってからなんですね」
「ああ、そうなんだ。今では、医師になってよかったと思うよ。誰かの命を救ったり、病気を治したりすることで、やっと自分の存在価値を見出すことができたからね。母が亡くなってから、自分はなんのために生きているのかと思ったことが何度もあった。岩見さん、諦めない気持ちが大事だと言ったよね? もう病気が治らないんじゃないかと落ち込む患者にスタッフみんなで全力を尽くすから諦めないでくださいと言ったことがあるんだ。でも、それが重荷になっているんじゃないかと思うこともあってね。だから、岩見さんに言われたとき、これからも諦めずに頑張ろうと力が湧いてきた。ありがとう」

 なんの前触れもなく告げられたお礼の言葉に、私は戸惑った。

「そんな、私はお礼を言われるようなことなんて、していないですよ」
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