10人家族になりました!
扉の向こうの家族
ー 詩 side ー

「ピンポーン」

その音が鳴った瞬間、心臓がドキンと跳ねた。
柚姉と顔を見合わせ、まるで反射みたいに玄関まで走る。

「ただいまー!」

扉の向こうから聞こえたお父さんの声。
そして、その後ろには——見知らぬ“家族”が立っていた。

「おっ、おかえり…!」

言った瞬間、妙な空気が流れる。あれ、どうしよう、超気まずい……!!

柚姉も無理に笑って「お、おかえり〜」と声を上げたけど、固い、硬すぎる。

頭が真っ白になって、何を話せばいいか分からなくなっていると——

パタパタパタッ
スリッパの音が近づいてきた。

「初めまして。早坂怜です。もしよろしければ、座ってお話ししませんか?」

怜姉が、いつもの落ち着いた声でそう言った。
それだけで場の空気が、すっと柔らかくなった気がする。

朱莉さんは「あら、いいわね!」と笑顔で応じてくれた。

助かった……!!怜姉、女神!!

怜姉は振り返りざまに、私たちに小声で言った。

「柚、詩。飲み物とお菓子、頼める?支度、まだ終わってなくて」

「オッケー!!」

私と柚姉はそろって返事をすると、台所へ向かった。手が震える。
でも、これが新しい家族との第一歩なんだ。がんばらなきゃ!

ー 理人 side ー

「……はっ!?」
驚いて声を漏らしたのは、俺だった。

一気に注目を浴びる。
それはそうだろう。
母さんに再婚を考えてると伝えられた時俺は興味がなかったせいか、そんざいな返事しかしなかったと思う。綾人にも流石に今のはなかったよといわれてしまった。

目の前にいるのは、何度もコンクールで見かけた少女だった。
クールな佇まいで、正確な音を奏でるピアノ。印象に残ってた。

……まさか同じ家に住むことになるとは。

「怜、手伝う」

気づいたら口から出ていた言葉に、怜はほんの少し微笑んだ。

「ありがと。助かるわ」

そのやり取りを聞いた全員が、ピタッと動きを止めた。

「……えっ!? 知り合いなの!?」
「しかも呼び捨て!?」
「ていうか息ピッタリじゃん!」

柚というらしいギャル風の女の子が驚いて声を上げる。
隣の詩というらしい女の子も口をぽかんと開けていた。

母さんもあわてて聞いてきた。

「ちょっと待って、理人。知り合いなの?」

「いや、知り合いってほどじゃ……ないけど。前にコンクールで見かけたことがあるんだ。すごく印象的な演奏だったから。別に、特別仲が良いってわけじゃない。演奏を見ただけだ」
怜「そうなの。驚きよ!」
ふたりの間に流れるのは、なんとも言えないプロ同士の空気。これだめなやつ。普通に会話が入れないやつだ。
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