10人家族になりました!
ー 詩 side ー

台所でお菓子を並べながら、私と柚姉は顔を見合わせた。
「……なにあれ」
「なにって、理人くん?と怜姉」
「うん……っていうかさ、怜姉、あんな顔するんだ」
「“あんな顔”て、どんな?」
「……ちょっと、うれしそうなやつ」

ふだんの怜姉は、どこか大人で、感情が表に出ることは少ない。笑っててもどこか遠い感じ。
でも、あのときは違った。
ほんの一瞬だったけど、あんな表情、私は初めて見た。

「……詩、手、止まってるよ」
「えっ、あっ! ご、ごめん!」
クッキーがバラバラになりかけていて、私はあわててお皿を整え直した。

うう……落ち着け、私。今日は“家族になる日”なんだ。
緊張もするし、不安もあるけど、それでも一歩踏み出さなきゃ。

お菓子とジュースのトレイを持って、リビングに戻ると——

さっきより、空気はほんのりやわらかくなっていた。

「おまたせしました〜。お菓子、どうぞ!」
「わあ、ありがとう! わざわざ準備してくれたのね」

お義母さん——朱莉さんが、ふわっと優しい笑顔で受け取ってくれる。
……なんか、やさしそうな人。ちょっとホッとした。

隣で柚姉がさりげなく、子どもたちの名前を聞き出す。

「そっちは弟くん? 名前、なんていうの?」
「郁斗(いくと)です! 二歳なの!」と朱莉さんが答えると、
「いっくんか〜! かわいいじゃん!」と柚姉がもう笑顔MAXでスキンシップ開始。
すげえ。ギャル系コミュ力、発揮しすぎでは?
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