一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜
馬車の中、お互い向かい合いしばらく沈黙が続く。

晴明はどう話せば良いか考えあぐねているようだ。
香蘭もまた、どこから聞くべきか…それとも聞かない方が良いのか…話し出す勇気がなく、ただ握られた晴明の大きな手を見つめていた。

晴明はバサっとおもむろに被っていた頭巾を取り、髪をバサバサと掻き分ける。

腕には一筋毒矢が掠った跡が痛々しく赤く浮かび上がっている。
「…傷を消毒したいです。」
触れてはいけないと言われていたが、そのキズが気になって仕方がない。

「俺は元から毒に耐えられるよう子供の頃から慣らしている。だが、そなたはそうでは無いのだから、触らぬ方が良い。血は既に止まった、痛くも無いから大丈夫だ。」

「…それでも…私のせいです。
晴明様が、私を庇ったから…」

「そなたを守れて本望だ。」
フッと笑って、香蘭の頬をフワッと撫ぜる。

「晴明様は本来なら、私なんかを守るべきではないのです。」
そう言うと香蘭がポロポロと涙を流し始める。

なぜか分からないけど、誰かから命を狙われている自分が、この国にとって最も大切な皇帝の命を脅かしてしまった事に、大きな衝撃を受け、それと同時にこの方の力になりたいと、助けになりたいと思っていた自分の浅はかさに打ちのめされる。

慌てたのは晴明で、
「泣くな…。」
突然泣き出した香蘭に強く胸を痛め、隣の席に移動して抱きしめる。

「俺は皇帝である前にそなたの未来の夫だ。そなたを守れた事に満足している。」

「…晴明様は…この国に…必要な…大切な…お方です…それなのに…もう、お側にいられません…あなたを傷つける…存在なら…」
嗚咽しながら香蘭が言葉を絞り出す。

「そなたのせいではない。俺は香蘭を守りたいのだ。国政よりも何よりも大事で1番の重要事項だ…離れる事は許さない…
無理だ。そなたを手離す事など出来るわけが無い。」
力強く抱きしめるその腕に力をこめる。

「香蘭を手離すくらいならこの地位なんて誰かにくれてやる!」
首をプルプルと左右に振って香蘭は顔を両手で覆い泣き続ける。
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