一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜
第六章 そして世界は報われる
香の国へ
それを日を境に、香の国との話し合いも急激に進歩し、その破滅的な内政や一部の貴族や武人達の反感を耳にするほど、懐に入り込む事が出来た。
そしてついに香の国の国王劉進(りゅうしん)と万世国皇帝晴明の和平交渉会議が行われる。
その日は快晴で、空には雲ひとつなく空気は澄み渡っていた。
航路を経て初めて皇帝晴明が香の国に降り立つと、出迎えの鼓笛隊が盛大な音楽を奏で始める。
赤い絨毯が敷きしめられた道を皇帝晴明を先頭に、李生と左大臣の竜徹(りゅうてつ)が並び後に続く。
その後を国防長官の蝶 倫白(ちょう りはく)、他3名の大臣達が続き、その後を第3部隊隊長を先頭に精鋭部隊30人が列をなす。
その中でも一際キラキラと輝きを放つのは、皇帝晴明で他ならない。
彼は真紅の衣装に身を包み、頭には艶やかな王冠をかぶっている。その自信に満ちた態度と神々しいまでの姿に、そこに居る誰もが目を奪われる。
サーっと吹き抜ける風もどことなく清々しさを運んで、より一層彼を魅力的に演出した。
出迎える香の国の国王劉進から見ても、それは眩しいほどだった。
実はこの劉進という男、部類の両性愛者だと言う。このことは先に嫁いだ元側室の高琳から聞く。
彼女は国王劉進に気に入られたらしく、寵姫として贅沢な暮らしを送り満足しているようだった。
その情報を耳にした時、晴明としては複雑な思いだったが、これは使えると目を輝かせたのは他ならぬ側近李生だった。
「陛下、これはある意味チャンスです。その顔を最大限に生かし国王劉進を虜にして来てください。」
と、李生は晴明に興奮気味に話して聞かせる。
当の本人は見てくれなんて、たかが皮一枚の事だろうと、あまり重要視していないような口ぶりだ。
実は晴明にとって、その精悍な顔立ちはむしろ邪魔でしかないと思っているところもあり、李生の案に気が乗らないでいたのだ。
子供の頃からいつだって外見で判断されがちで、中身を見て欲しいと日々思っていたから、この整った顔に嫌気さえ持った事もあったくらいだ。
だから、生かせと言われたところで嫌悪感しか生まれない。
一方、赤い絨毯の終わりには香の国からの出迎え者達が並び立っている。
花束を持った小さな子供を真ん中に、両サイドに親善大使 栄西(えいさい)、軍部指揮官の秦嶺(しんりょう)が立ち並ぶ。
彼等とは秘密裏に何度も話し合いを重ねてきた。
今日の日を迎える事出来たのも彼等の尽力あっての事。
国王劉進はどこかと探せば、それより少し離れた場所にひな壇を設け、高みの見物かのように立派な椅子に鎮座している。
その両脇には煌びやかな衣装を着た高琳と、見知らぬ貴妃が並び立つ。
皇帝晴明は足を止めてそれを一瞥する。
「今日は良い天気ですね。さぁ、最大限に自分を売って成果を収めて来てください。」
後ろに控える李生が小声でそう言って葉っぱをかけてくる。それを晴明は顔色を変えずチラリと見やり、
「気持ちが悪い辞めてくれ。
両性愛者である事になんら不快は無いが…その対象になるかもしれないというのは不快でしか無い。」
顔色ひとつ変えずに、小声でそう本心を伝えてくる。
国王劉進から見下ろされ、晴明としては品定めされている目線を感じ、不快しか感じ取れないでいた。
すると、手前にいる小さな子供が前に歩み出て、
「香の国へようこそおいで下さいました。」
と、緊張気味に、それでも健気に笑顔を見せてくる。
この子になんの罪があろうかと思い、晴明は目線を合わせる為、片膝を付き差し出された花束を受けとる。
「ありがとう。」
香の国の言葉を使いそう感謝を伝えると、その子が無邪気に抱きついてくるから、片手で抱き上げその奥に控える親善大使、栄西の所まで運ぶ。
「この子は我が孫の凜々です。」
親善大使、栄西は朗らかな笑顔を見せて、晴明から孫娘を大事そうに抱き受ける。
「健やかにお育ちのようで何よりだ。」
笑みを含めてそう言う晴明は、栄西から合うたびに孫の話しをよく聞いていたから、もしやと思っての行動だった。
晴明だって馬鹿では無い。
全ての動作において演出されている事くらい分かっていた。
子供に花を持たせたのはきっと背の高い晴明を跪つかせる為だ。それは同時に香の国を上に見せる為の演出でもある。
その事も重々承知の上で跪いて見せたのだ。
晴明からしてみれば、反抗的な態度は無く、平和交渉に来たのだと相手に分からせる行動だった。
栄西と言葉を交わしていると、ひな壇に座る香の国の国王劉進が立ち上がり、こちらに歩いて来るのが目に映る。
これは第一関門を突破したのだろうと、晴明は察知する。
国王劉進は栄西の隣に並び立つ。
晴明は軽く頭を下げて笑顔をむけ、
「お初にお目にかかります、劉進殿。」
と香の国の言葉を使い、良く通る低い声で堂々と挨拶をする。
劉進もそれに気をよくしたのか、
「晴明殿のお噂はかねがね聞いておった。今日会える事をとても楽しみにしていたのだ。」
年の功だと言うように敬語も使わず話しかけてくる。
見れば晴明より頭一つ分小さく、ボテっとした体格は中年の男にありがちなビールっ腹で、王冠を被っていなければ王だと分からないくらいオーラの無い男だった。
それでも晴明は敬意を忘れず、差し出された手を両手で握り返し、
「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします。」
とワザと下手に出る。
これも全て侵略する為の駆け引きであり演出なのだ。
下に出る事でいい気分にさせて懐に潜り込む。
まんまとハマった国王劉進は、気をよくしたのか自ら案内をかって出て、移動の為の馬車へと晴明を誘う。
そしてついに香の国の国王劉進(りゅうしん)と万世国皇帝晴明の和平交渉会議が行われる。
その日は快晴で、空には雲ひとつなく空気は澄み渡っていた。
航路を経て初めて皇帝晴明が香の国に降り立つと、出迎えの鼓笛隊が盛大な音楽を奏で始める。
赤い絨毯が敷きしめられた道を皇帝晴明を先頭に、李生と左大臣の竜徹(りゅうてつ)が並び後に続く。
その後を国防長官の蝶 倫白(ちょう りはく)、他3名の大臣達が続き、その後を第3部隊隊長を先頭に精鋭部隊30人が列をなす。
その中でも一際キラキラと輝きを放つのは、皇帝晴明で他ならない。
彼は真紅の衣装に身を包み、頭には艶やかな王冠をかぶっている。その自信に満ちた態度と神々しいまでの姿に、そこに居る誰もが目を奪われる。
サーっと吹き抜ける風もどことなく清々しさを運んで、より一層彼を魅力的に演出した。
出迎える香の国の国王劉進から見ても、それは眩しいほどだった。
実はこの劉進という男、部類の両性愛者だと言う。このことは先に嫁いだ元側室の高琳から聞く。
彼女は国王劉進に気に入られたらしく、寵姫として贅沢な暮らしを送り満足しているようだった。
その情報を耳にした時、晴明としては複雑な思いだったが、これは使えると目を輝かせたのは他ならぬ側近李生だった。
「陛下、これはある意味チャンスです。その顔を最大限に生かし国王劉進を虜にして来てください。」
と、李生は晴明に興奮気味に話して聞かせる。
当の本人は見てくれなんて、たかが皮一枚の事だろうと、あまり重要視していないような口ぶりだ。
実は晴明にとって、その精悍な顔立ちはむしろ邪魔でしかないと思っているところもあり、李生の案に気が乗らないでいたのだ。
子供の頃からいつだって外見で判断されがちで、中身を見て欲しいと日々思っていたから、この整った顔に嫌気さえ持った事もあったくらいだ。
だから、生かせと言われたところで嫌悪感しか生まれない。
一方、赤い絨毯の終わりには香の国からの出迎え者達が並び立っている。
花束を持った小さな子供を真ん中に、両サイドに親善大使 栄西(えいさい)、軍部指揮官の秦嶺(しんりょう)が立ち並ぶ。
彼等とは秘密裏に何度も話し合いを重ねてきた。
今日の日を迎える事出来たのも彼等の尽力あっての事。
国王劉進はどこかと探せば、それより少し離れた場所にひな壇を設け、高みの見物かのように立派な椅子に鎮座している。
その両脇には煌びやかな衣装を着た高琳と、見知らぬ貴妃が並び立つ。
皇帝晴明は足を止めてそれを一瞥する。
「今日は良い天気ですね。さぁ、最大限に自分を売って成果を収めて来てください。」
後ろに控える李生が小声でそう言って葉っぱをかけてくる。それを晴明は顔色を変えずチラリと見やり、
「気持ちが悪い辞めてくれ。
両性愛者である事になんら不快は無いが…その対象になるかもしれないというのは不快でしか無い。」
顔色ひとつ変えずに、小声でそう本心を伝えてくる。
国王劉進から見下ろされ、晴明としては品定めされている目線を感じ、不快しか感じ取れないでいた。
すると、手前にいる小さな子供が前に歩み出て、
「香の国へようこそおいで下さいました。」
と、緊張気味に、それでも健気に笑顔を見せてくる。
この子になんの罪があろうかと思い、晴明は目線を合わせる為、片膝を付き差し出された花束を受けとる。
「ありがとう。」
香の国の言葉を使いそう感謝を伝えると、その子が無邪気に抱きついてくるから、片手で抱き上げその奥に控える親善大使、栄西の所まで運ぶ。
「この子は我が孫の凜々です。」
親善大使、栄西は朗らかな笑顔を見せて、晴明から孫娘を大事そうに抱き受ける。
「健やかにお育ちのようで何よりだ。」
笑みを含めてそう言う晴明は、栄西から合うたびに孫の話しをよく聞いていたから、もしやと思っての行動だった。
晴明だって馬鹿では無い。
全ての動作において演出されている事くらい分かっていた。
子供に花を持たせたのはきっと背の高い晴明を跪つかせる為だ。それは同時に香の国を上に見せる為の演出でもある。
その事も重々承知の上で跪いて見せたのだ。
晴明からしてみれば、反抗的な態度は無く、平和交渉に来たのだと相手に分からせる行動だった。
栄西と言葉を交わしていると、ひな壇に座る香の国の国王劉進が立ち上がり、こちらに歩いて来るのが目に映る。
これは第一関門を突破したのだろうと、晴明は察知する。
国王劉進は栄西の隣に並び立つ。
晴明は軽く頭を下げて笑顔をむけ、
「お初にお目にかかります、劉進殿。」
と香の国の言葉を使い、良く通る低い声で堂々と挨拶をする。
劉進もそれに気をよくしたのか、
「晴明殿のお噂はかねがね聞いておった。今日会える事をとても楽しみにしていたのだ。」
年の功だと言うように敬語も使わず話しかけてくる。
見れば晴明より頭一つ分小さく、ボテっとした体格は中年の男にありがちなビールっ腹で、王冠を被っていなければ王だと分からないくらいオーラの無い男だった。
それでも晴明は敬意を忘れず、差し出された手を両手で握り返し、
「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします。」
とワザと下手に出る。
これも全て侵略する為の駆け引きであり演出なのだ。
下に出る事でいい気分にさせて懐に潜り込む。
まんまとハマった国王劉進は、気をよくしたのか自ら案内をかって出て、移動の為の馬車へと晴明を誘う。