一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜
さすが我が陛下だと李生はほくそ笑み、その後ろに従い歩いて行く。

第一印象は大切だ。

一緒に馬車に乗り込んで来た国王劉進は、ペラペラと晴明相手におしゃべりを始める。

「お主のことはいろいろと伝え聞いていた。若くして国を治め、冷酷無人で剣を握れば一瞬で屍の山を築くほど長けていて、誰もが恐れているとな。
会ってみれば見目美しい美男子ではないか。余は安心したぞ。」
既に心を開いたらしく、仕掛けた晴明自身も呆気に取られるくらいだ。

「そのような噂が?
噂とは後に尾ひれがついて信じられない物ですね。」

ハハハッと楽しげに笑って見せる晴明は、普段の威厳に満ちた態度をも消して、いささか大袈裟過ぎるのでは、と李生が思うほどだった。

晴明が交渉ごとに長けているのはこう言うところだ。
相手に合わせて幾重にも人格を変えられる特技を持っている。

それは辛い幼少期を生きぬく為に得た、交渉術の一つであり、その本性を知る者は家臣の中でも一握りだ。
この姿を香蘭様に見せてやりたいと、李生は腹の中でそう思う。

こんなにも他国の国王でさえ丸め込めるほど饒舌に話す晴明なのに、香蘭の前ではまるで借りて来た猫のようになってしまう。それが本来の彼の姿なのかもしれないが、両方を知る者からしてみたら本当に同一人物かと思うくらいだ。

意気揚々と馬車の中楽しげに話しは続いていき、あっと言う間に王宮に到着する。

「それでは、今夜の晩餐会を楽しみにしておるぞ。」と、気をよくした国王劉進はにこやかに馬車から去っていった。

そのまま、与えられた部屋まで笑顔を絶やさず歩き続けた晴明が、バタンと部屋のドアが閉まった途端真顔になる。

「はぁー疲れた…。」
そう一言吐き出して、晴明はドカッと長椅子に足を投げ出し座り込む。

「お疲れ様でした。よく耐え切りました。」
李生は拍手を交えて賛美を送る。

「柄でもない好青年を演じて退けましたね。このまま一気に懐に潜り込みましょう。全ては計画通りです。」
左大臣竜徹(りゅうてつ)も楽しそうに晴明に喝采を贈る。

「しかしあれは…ただのエロオヤジだな。気色悪い…。」
毒舌を吐く晴明は、今は仮面を取り去り素の状態だ。

確かにベタベタと触られて不快な事ばかりであった筈だ。それをこの1週間の滞在中は平気な顔して乗り切らなければならないのだ。

最後まで持つだろか…。李生の頭に若干の心配が生まれる。
陛下は他人に触れられ事に異様なほど潔癖だ。女子でも香蘭様以外は受け入れないし、自分から触る事も無いだろう。

「香蘭様の為です。どうか耐え抜いて下さい。」
少しの同情を込めてそう言うと、

「そなたはいつも香蘭の名を出せば何とかなると思っていないか?」
と珍しく、晴明が悪態をついてくる。

「あっ!そういえば、香蘭様からおやつにとお手製のお菓子を預かっております。」

着いた早々、このアイテムを使うのは勿体無いが仕方ない。これも陛下に頑張ってもらう為だと、実は香蘭にいくつかお願いして作ってもらってあるのだ。

「…食べる。」
男とは単純な者で、それを分かっていながらそれでも嬉しいものなのだ。何とかこの褒美をちらつかせて、1週間を乗り切って貰わねばならない。

皿に幾つか香蘭お手製の月光餅を出してやると、晴明はその皿を大事そうに抱えてゆっくりと味わいながら食べ始める。

それを横から見ていた怖いもの知れずの竜徹が、
「美味しそうですね、一つ下さい。」
と、ワザと手を出してくる。

「そなたにやる餅など無い。」
と突っぱねて、晴明は子供の様な姿を見せる。

このギャップさえも家臣を虜にする演技なのではと思ってしまうほど、素の晴明は逆の意味で魅力的な男なのだ。
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