一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜
第一章 踊り子、鈴蘭の厳しい現実

何の為に生まれて来たのか…
誰の為に踊り唄うのか…

意味さえも分からないまま流れ流されここまで来たけれど、

結局、私にはそれしか無いのだ…
もうとっくに諦めた夢や自由…そして、幸せ…

産まれてすぐに孤児院に捨てられた私は、5歳の時に旅芸人の一座に拾われ、踊り子として厳しく育てられた。

日々鍛錬を繰り返し、踊りに唄に笛に琴、そして三味線と、踊り子に必要な芸事は一通り身に付けさせられた。
だけど、学校にはろくに通えず、読み書き算術は低学年くらいで終わっている。

手が荒れると商売にならないと、家事もろくにさせては貰えず…気付けば芸事以外何も出来ないまま大人になってしまった。

私の育った月光一座は、この国ではそこそこ有名な舞踊団らしく、祭りや宴にと国中から引っ切りなしに依頼が舞い込んでくるらしい。
日々旅をしながら国中を渡り歩いている。

私、香蘭(コウラン)は今年で18歳になる。
芸名は鈴蘭(リンラン)として13歳から舞台に立つ。

だけど、私は決して一座の花形では無い。
2番手3番手くらいの冴えない踊り子に過ぎない。

どんなに努力し鍛錬を重ね、扇子で叩かれ辛い折檻を受けようと、1番手の春麗(シュンレイ)のようにはなれなかった。

ただ一つだけ、誇れるものと言えば歌声だけだ。

それも今年で最後…。

この一座の掟で、18歳を過ぎたら誰もが一座を去る事になっている。

今までの努力は全ては一瞬で、水の泡となる。

何のためにここまで辛い思いをして頑張って来たのだろう…。

歴代の踊り子達はこの一座を去った後、金持ちに身請けされ愛人になったり、芸妓や舞妓になった者もいた。それが無理なら、最後は妓遊館で遊女になるしかないと聞く。

どんなに芸を磨いても、たとえ容姿が良くたって、この先に幸せはやって来ない。

私は自分の行く末を愁い、はぁーと深くため息を落とす。
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