1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています



***

 

結都は朝からゆううつだった。父と約束した日がとうとうやってきたからだ。

ふだんは交流のない父から『近くまで視察に行くから会おう』と連絡があったのは、たしか二月の終り頃だった。
結都に会う予定で出張予定を組んでいるらしく、避けることは難しかった。

父の仕事の都合に合わせて、八時ごろにホテルで食事する予定になっている。
少し早くホテルに着いた結都は、正面のロビーからカフェスペース、エレベーターホールやその向こうにある宴会場の辺りまで何気なく歩いてみた。
つい職業柄、どんな建築構造になっているのか気になってしまうのだ。

最近オープンしたばかりとあって、すみずみまで気配りがされているなと思っていたら、争っているような男女が目についた。
争うというより、男性が嫌がる女性に迫っている様子だ。
観葉植物の死角に入りながらそっと近付いた。

すると男性ががいきなり腕を伸ばしているのが見えた。

「あっ」

女性は左腕をがっちりと握られている。

(ヤバくないか、これ)

さすがに放っておけそうにない。タイミングを見て話しかけようと決めた。


女性はかなり嫌がっているようだし、男性に取られた腕が痛そうだ。

「やめてください!」

女性がバッグを思いっきり振り回すと、はずみで男性の頬か顎のあたりにあたったらしい。

男性がやっと手を離した。バッグがあたったくらいなら、たいして痛くはないはずだ。



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