1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「さ、いただきましょ」
「いただきます!」
「これも恭介のところの牛乳から作ったの?」
「正解。ブーベリージャムは果林さんが送ってくれたの」
恭介というのは梶谷家の長男、つまり紗彩の兄だ。
果林と結婚して八年目の三十歳で、二歳になるかわいい双子の男の子に恵まれている。
梶谷乳業の跡を継ぐことよりも大切だと、卒業と同時に牧場経営に乗り出した。
兄が経営する梶谷牧場は、市内から車で一時間半くらいのところにある鈴ヶ鳴高原にある。
牧場で力を入れているのがイギリス原産の乳脂肪分の多いお乳を出す乳牛で、近くの酪農家たちと協力して飼育数を増やしているところだ。
「少し酸味が強い気もするけど」
「やっぱり。もう少し甘みを加えてみようかなあ」
大学で食品栄養学を学んだ紗彩は新商品の開発を担当している。
今年に入ってから、紗彩は兄の牧場で生産される濃厚な牛乳を使った新しいヨーグルトを作ろうと研究を重ねているのだ。
業績を回復させるためにも、紗彩はこのヨーグルトが梶谷乳業の救世主になってくれたらと願っていた。
「今日はあなた、公休日だったわね」
紗彩は土日に出勤することがあるから、平日にも公休日がある
「学生時代からずっと希実に頼まれて続けている、病院の受付のアルバイトに行く日なの」
父が亡くなったとき、紗彩は大学二年生だった。
会社が傾いてしまったので、家計のことを考えた紗彩は卒業まで奨学金とアルバイトで乗り切った。
紗彩のために、あちこちから時給のいい仕事を探してきてくれたのが親友の足立希実だ。
市内の警察官や消防士たちの定期健診の受付という短時間でお金になるバイトを紹介してくれたのも、希実が足立病院の院長の娘だからできたのだろう。