これを運命というのなら
「キララの玲からずっと俺が言い寄られてるんは恵美から聞いて知ってるんやろ?」


タバコをサイドテーブルに置いた陽希さんに訊かれて、小さく頷いて。

電話かかってきて何度も断ってるのも見てるから、と陽希さんを見上げると。

肩を抱き寄せている手に力が込められて。


彼女が誰か………アダンと仲良くなって聞いた。


それが、私。

陽希さんはアダンにも話していたんやと思う。

仕事上のパートナーとして信頼していたからこそ。

私もアダンとは、独立してから直接の取り引きで話をする事もあったから、陽希さんと同じように信頼していた。

ソムリエ資格の中で世界最難関と呼ばれているマスターソムリエでもあるんやから。


「で……アダンが綾乃をフランスに呼び寄せたい、自分は綾乃を欲しい、と言うてきたから。俺は断ったんやけど……断った代償が今の状況や。玲は俺が欲しい、アダンは綾乃が欲しい……恵美から綾乃が聞いた噂も辻褄が合うやろ」


ということは………早かれ遅かれ、連絡があったとしたら―――

アダンは取引を続けるなら綾乃を引き換えにするやろな。

私が口にしようとした事を先に陽希さんの口から言われると。


背筋に悪寒が走っていて、身体がブルっと震えた……その一瞬を悟ったんやろう陽希さんは、私の顎を持ち上げて唇を重ねてくれて。


「大丈夫やから心配すんな。離さへん言うたやろ。綾乃も俺以外の所になんか行かれへんのやろ?」


髪を撫でながら、安心させてくれるように微笑んでくれた陽希さんの唇に、応えを返して。


陽希さんやないと嫌や。


頭を自分の胸に寄せて、抱き締めてくれた陽希さんのこの鼓動も私のやから。

胸元に紅い華を咲かせると、仕返し?


仕返しちゃう……気づいてや!

言葉にせなわからへんのなら。


「陽希さんも私のっていう証」


そうやな、俺も綾乃のやな。

頭をポンッとしたかと思えば、反転させられて。

私が陽希さんを見下ろす態勢に変えられていて。


夜までに、あと1回くらいする時間はあるんやけど……抱かれたい?


そんな艶っぽい瞳で訊かれれば、答えはYES以外にないやんか。


ほんまに、太陽が沈んで月明かりが空を照らし始める間際まで――

お互いのものなんやと確かめ合って。

陽希さんと私の胸から下には、無数の紅い華が咲いていた。
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