これを運命というのなら
あらっ、伊藤くん久しぶりやわ。


着物を着たキララのママに出迎えられて、極自然に腕に手を添えて肩口に寄り添って来て。

大きな瞳で上目遣いをされたら。

わざとらしくもなく、極自然だからこそ苦にはならず。

ママのこの仕草には、心臓を跳ね上がらせたくなくても跳ね上がってしまって。


今日も着物が似合ってるやん、綺麗やで。


つい、そう返してしまうんやから……こういうのを綾乃は嫌なんやろうと思うんやけど。

こればっかりは仕方ない。


ありがとう、と応えたママに。


「今日はな……玲と話がしたくて来たんやけどおる?」



「そうなん?とりあえず席まで案内するわ」


俺から玲を指名すること、いや……俺がキャストを指することが珍しいんやろう。

一瞬、驚きながらも案内してくれたママに。

他のキャストは付けないように伝えた数分後――。

やっぱり雰囲気の変わった玲が、ソファーに斜めに座り、膝と膝が着く距離で。

来てくれて嬉しい、と太腿に置かれた手を握って。



「最近……ちょっと雰囲気、変わったな。男でも出来たんか?」


嬉しそうに、出来てへんよ、と微笑んで。

キープしているウィスキーボトルを持った玲に、今日は呑まへんから水でええよ。

多少のウィスキーで酔うほど、弱いわけではないんやけど……呑む前に話を。
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