狂気のサクラ

妄執

朝夕はまだ肌寒く、梅の花さえ開花していないけれど、『有楽』の桜は蕾をつけ、日中は気温の上がる日が増えてきた。
彼とは晴れて恋人同士とは言えないかもしれないけれど、週に1度は部屋へ呼んでくれた。
彼の家へ行き抱かれて帰る。そんな曖昧な関係でも愛情があればそれで良かった。
彼の気持ちが少しは私に向いていると思えていたからだ。
「私異動することになったんだ」
勤務中、溝手が急にそう言った。
「え?」
「新店舗が出来ることになってそこに行くことになったんだ」
「そうなんですか」
そんな話を聞かされて答えに困る。寂しいです、と薄っぺらい社交辞令がベストなのだろうか。
「香川さん藤原くんと付き合ってるんだよね?」
「え?」
今度はそんな質問を投げかけてくる。
「藤原くん追いかけてここに入ってきたんでしょ?」
「どうしてですか?」
「何となく」
何故そんな質問をしてくるのだろう。溝手は今も彼と繋がっているのだろうか。
「そういうわけではないです」
「私藤原くんと付き合ってたんだよね。って付き合ってたってのは違うかな。都合の良い時だけ呼ばれて会ってた感じかな」
今の私と同じだ。
どうしてそんな話をしてくるのだろう。
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