今日は我慢しない。
「……自分が何を言ってるかわかってる?」

「わかってるよ」

「だめよ。行かせない」

「それでも行く」

「……」


 俺の並々ならぬ決意を感じたのか、母さんが押し黙る。

 こういう無表情になった時の母さんは引き下がらないって知ってるけど、今日だけは俺も引くわけにはいかない。


「性別でその人の価値が決まるわけじゃない。体質が違うだけで、俺も三条も母さんも同じ人間だ。母さんにも、性別に関係なく一人の人間として向き合ってほしい」


 母さんがハァ、とため息をついた。


「可哀想に、看過されちゃったのね。αは本当にあれのフェロモンに弱いのねぇ」


 まったく話が通じてない。

 俺の方こそため息をつきたくなった。


「フェロモンとか関係ないよ。どういう人かも知らないくせに決めつけんなよ」

「どういう人か? それ以前の問題よ。大事な息子の周りに害虫が飛んできたらはらうだけ」


 三条を害虫呼ばわりされて、俺の中の何かがプツンと切れた。


「もういい。これ以上母さんと話していたくない。俺、行くから」


 そう吐き捨てて玄関に向かう。

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