今日は我慢しない。
 今まで家族のために頑張ってきたけど、さすがに許せない。

 最悪勘当されたっていい。

 これ以上母さんの自己満ファミリーショーに付き合ってられない。


「あぁ、そういえば彼女ひとり暮らしなのね。父親は不明で?」


 苦肉の策か、三条の家の事情を話し始める母親を無視して、上がり框に腰掛けスニーカーに足を入れる。


「母親は幼少期に死んで親戚を転々とたらいまわしにされて……あらあら一人ぼっちなのね、可哀そうに。でもΩ優遇制度がある時代でよかったわよね。特待生試験に受かれば家賃も生活費も学校が保証してあげて、学業に専念できるんだもの。弁護士なんて夢も、少し前のΩじゃありえなかったわ」

「……」


 どんだけ調べてるんだよ。

 三条本人から聞いたことのない情報をこんな形で聞きたくない。


「そもそも普通はこの年齢の孤児Ωなら国の補助だけじゃ生きられないわよね。風俗店で年齢偽って働いて食いぶちを繋げたらいい方じゃないかしら。あぁ、本当にかわいそう。この学校を退学にでもなったりしたら、人生終わりなんだもの」


 〝退学〟というワードに、靴紐を結ぶ手を止めて振り返る。

 すると母さんは、愉快げに目を細めて口角をあげていた。


「それでもね。 学校は優秀なαが一番大事なのよ、誠太」

「は……?」


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