今日は我慢しない。
 母さんは俺と目が合うようにしゃがみ、声を落とす。


「簡単よ。〝息子をたぶらかす害悪なΩがいます〟ってひとこと言うだけ」


 まるで内緒の恋バナをするみたいな声音で言う母に、心の底からぞっとした。


「それだけであの子の人生を地の底に落とせるんだから」

「だめだ、させない」

「やだわ誠太ったら。あなたが口出しできると思ってるの?」

「っ、ふざけんな!」


 たまらず声を荒げると、母さんがわざとらしく顔をしかめた。


「まぁ、駄目よそんな大きな声出して。大丈夫よ、ちゃんとこっちに迷惑はないように処理するから」

「そういう問題じゃない! 退学なんか、絶対ダメだ!」

「そう言われても困ったわ……他に手がないんだから。あなたがαの専門学校に転校するって言うなら話は別だけれど」

「は……?」

「今の学校はあなたがどうしてもって言うから入れたけど、やっぱり今のままじゃ勉強も身に入らないでしょう?」

「っ、」


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