今日は我慢しない。
 うちは生粋のβ家系。

 俺だけがイレギュラーで、母さんも父さんも兄も、みんなβの診断がくだっていたはず。


「何言ってんだよ……父さんはβだろ」

「後天性αだったのよ」

「後天性……?」


 第二の性は14歳の時点で決まる。

 だけど一部例外があるのだと、都市伝説ぐらいの噂には聞いたことあった。


「ええ。去年わかったの。お父さんスカウトされて転職したでしょう? 転職先で〝運命の番〟に出会っちゃったんですって。αとΩが本能で惹かれ合うとかいうあれ」

「……え?」

「運命の人はお母さんじゃなかったんですって」


 母さんは笑顔だ。


「っ……、」


 俺は急いで靴を脱ぎ捨てて父さんの部屋へ走った。

 部屋を開けるとそこは、もぬけの殻だった。


「は……いつ……?」

「気づかなかったでしょう。先週、夜中にコソコソ出て行ったのよ」


 なんだよ、これ。

 俺、なんも聞いてないし。

 まるで最初から何もなかったみたいじゃないか。
 

 足に力が入らなくなって、膝がカクンと折れる。


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