今日は我慢しない。

「……何が運命よ。何が本能よ。ただの不倫と何が違うのよ」


 後ろからした母さんの声は、怒ってるとも泣いてるともとれる震え声だった。


「『本能には抗えない』『許せ』って、なんの躊躇いもなく指輪と離婚届を置いて出て行ったわ。まるでこの家庭は〝間違いだった〟とでも言いたげに……!」


 母さんが勢いよく指輪を投げ捨てて、壁にぶつかったそれがやがてコロコロと床を転がる。

 それから母さんは、後ろから俺を抱きしめた。


「誠太。母さんにはもう、誠太しかいないのよ」


 何を大袈裟な、と今までなら思ってたかもしれない。

 でも兄さんも父さんもきっともう帰ってこないんだ。

 この家には俺と母さんだけ。

 母さんには、俺だけなんだ。


「私はΩを許さない。絶対にあなたをΩなんかには渡さない」



 ……なんだこれ

 地獄?


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