今日は我慢しない。
「いやいやいやいやいいよいいよ、そんな大した量じゃないし!」

「大した量だろ」

「いやいやいやいやでも、ほら、もうお昼だし、」


 困る! しかも二人きりとか!!


「……ねぇ」


 佐柳がむぅ、と眉間に皺を寄せた。


「俺のこと避けてる?」

「っ……ん?」


 佐柳はボールを小脇に抱えて私の方へ歩いてくる。


「避けてるよな」

「い、いや? そそそそんなそんな」


 目を細めて不機嫌を隠さない佐柳はどんどん距離を縮めて、とうとう私の目の前まで来た。

 少し後ずさる私の背中は、もう少しで壁についてしまうところ。


「気まずいのは理解できるよ。 でもこんな露骨に避けられたらさすがに傷つくんだけど」

「っ……、」


 うわ

 どうしよう


 佐柳は不機嫌な顔つきから、少し眉を下げて悲しそうなそれに変える。


 ぐっ。 可愛い。 子犬みたい。


 佐柳のギャップある表情に胸が疼いて、私の中の何かにまたスイッチが入る。


 そんなこと知らない佐柳は、あと一歩近づけばぶつかってしまう距離で、言う。


「……あのとき、そんな嫌だった?」


 ……やばい

 これ、ダメかも


「ち、がう」


 だめだ、声が上擦っちゃう。

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