今日は我慢しない。
 顔がみるみる熱を持って、それを見られまいと、両手で顔を塞いだ。


「……? どうした? 大丈夫?」


 それを心配してか、優しい声音の佐柳が近寄る気配がする。

 カァッと顔がさらに熱くなった。


「だっ、だめ……!」


 後ずさった勢いで背中がドン!と壁にぶつかった。


「なにがだめ? 俺に近付かれたり触られるのが怖いってこと?」


 私は首を左右に振る。


「じゃあどういうこと? 言ってくれなきゃわかんねー」


 そう言って佐柳が、また近づこうとする気配がした。

 思わずはずした両手から、佐柳の心配そうな表情が目に入る。



「三条?」



 佐柳が小首をかしげて、私を覗き込んだ。



「だめ!」



 バッと両手で顔を覆う。



「だからなんで」



 だめっ、だめだめだめ、もうだめ!!


 耐えかねた私は、とうとう言った。



「っ、は……っ、発情、しちゃうから……っ」
 


 恥ずかしさのあまり蚊の鳴くような声になった。



「え? ごめん、なんて?」



 耳を傾けようと、佐柳がさらに近づく。



「~~~……っ、佐柳に!発情しちゃうから!」



 ら、ら、ら……と切羽詰まった私の情けない声が、体育館にこだました。



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