恋をしたのは姉の夫だった人
 若田もまた、優を見つめたまま。

「柊木さんが僕を弟みたいに思ってることはわかってます。でも僕は……ずっと、あなたに下心を持っていました」

 秘めていた想いを打ち明けられ、動揺してしまう。
彼のことは、これまで少しも意識していなかったのだから。

「お義兄さんとは、本当はお付き合いをされているのではないですか……?」

 彼の窺う視線に胸がどきつく。
なんだかいけないことがバレてしまった時のように、落ち着かない。
優は首を大きく左右に振った。

「それはないの。私は義兄とどうにかなりたいとか、ないから……」

 その声は、ひどく震えてか細い。

「ですが……」

「本当にないの」

「……」

「……だって彼は、姉の大切な人……だから」

 涙が意図せずほろりと溢れてしまう。
苦しい嘘を吐いたせい。

 本当は、瑞樹の心が欲しい。
でもそれは難しいこと。
大好きな姉の夫だった人。
だからこそ、いけないことなのだ。

 瑞樹とのことで心躍らす夜は夢を見る。
朝目覚めた時の罪悪感がひどくて、自分が悪いことをしているのだと思い知らされるというのに、彼と付き合うだなんてとんでもない。


 若田は優の頬にハンドタオルを当て肩を抱き、そのまま優をビルとビルの間に引き込んだ。
< 70 / 72 >

この作品をシェア

pagetop