恋をしたのは姉の夫だった人
 優は慌てて手で頬を拭う。

「アハハ……ごめんね、泣いたりして……」

 無理に笑みを浮かべた次の瞬間、温もりにふわりと包まれた。
若田が好んで付けているレモンの香水の爽やかな匂いが近くなる。

「僕じゃダメですか……?」

「……え」

「もしお義兄さんとのことで、罪悪感とか抱えているのなら……僕とならそんな気持ちを持たずにいられますよ」

 彼の優を抱き締める腕の強さが、キュッと強くなる。

「好きなんです。柊木さんが……」

「……」

「僕に気持ちがないことはわかっています。でも、これから僕のことを考えてもらえませんか?」

「若田君……」

 ――若田君が私を好きだったなんて……。
全然そんな素振りみせなかったのに。

 いや、本当にそうだろうか。
自分が義兄しか見ていなかっただけで、彼は――。

 優の胸はドキドキとうるさくなる。

 短期間の間に、三人の男性からアプローチされることなんてなかなかないだろう。
こんな状況になるなんて、少し前の自分はまったく想像していなかった。

 優の心は複雑に揺れる。
色々な感情から、頭が痛くなるようだった。
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