神に選ばれなかった者達 前編
ほたるのいじめエピソードを、一つ一つ語っていったら夜が明けちゃうんで。

その中でも、特に「陰湿だなー」、「残酷だなー」と思った事例をいくつかご紹介しよう。

…あ、嫌な気分になったらごめんな。でもこれ、あったことだから。実際。

まず、給食関連のいじめ。

食べることって大事だと思うんだよ。

日常生活に楽しみのないほたるにとっては、食べることは何より楽しみじゃないか。そうだろう?

それに、ある意味で給食問題は、ほたるにとっては死活問題だった。

というのも、ほたるは自分の家で、家族として扱われなくなっただろう?

お陰で、家族と一緒に食事を取らせてもらえなくなった。

ほたるの食べ物はというと、家族皆の食べ残しだった。

残飯だよ。

その残飯でさえ、充分に食べさせてもらえることはなかった。

ほら、ほたるの家は、育ち盛りの兄弟達がいるから。

家族は誰も、ほたるの為に残飯を残してあげよう、なんて思わないので。

家族がご飯もおかずもみーんな食べちゃって、お腹いっぱい大満足!…なのに対し。

ほたるは、ほとんど上澄みだけの味噌汁を一杯啜っただけ。なんてことも、しょっちゅうあったのだ。

惨めなもんだよ。食べ物に関することだけは。

卑しいと思うかもしれないけど、それは腹いっぱい食ってる奴の台詞だ。

多分、空音兄妹なら、この気持ちを分かってくれるんじゃないだろうか。

「どうか自分の食べる分が残りますように」と祈りながら、空きっ腹抱えて家族がたらふく食べる様を見ている、なんて。

実際体験した奴じゃないと、この気持ちは分かるまい。

家族はほたるが腹ペコだろうと何だろうと、全然気にも留めなかったしな。

空腹に耐えかねて、こっそり食べ物を盗もうかと思ったことも、何度もあった。

しかし、それも簡単なことではなかった。

前述の通り、ほたるは夜中中、押し入れの中に監禁されていたし。

何より、この期に及んで、また盗みをしているのがバレたら。

今度こそ、どんな目に遭わされるか分からない。
 
そんな恐怖もあって、家の中で食べ物を得るのは非常に難しかった。

しかし、学校では違う。

学校で食べる給食は、ほたるにとって唯一の希望のようなものだった。

大袈裟だって思うだろ?全然大袈裟じゃないから。

それまで給食なんて、さして美味しいと思ったこともないほたるだったが。

こうなってから途端に、給食が美味しくてたまらなくなった。

好き嫌いも多かったほたるだけど、もうそんなことは言っていられない。

嫌いな食材だろうとお構いなしに、食べ物とあらば何でも食べた。

空腹は最高のスパイス、ってのはよく言ったもんだな。

出された一人前をぺろりと平らげ、その後は余ったおかずやご飯をお代わりした。

これまで、給食を残すことが多かったほたるが、お代わりまでして食べるようになったものだから。

クラスメイト達は、好奇の眼差しでほたるを見たものだ。

何処となくほたるがやつれているから、大体の事情はクラスメイト達も察していたんじゃないだろうか。

察していて、あのいじめなんだから。

子供って、人間って、ほんと残酷だと思う。
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