「……だったら、案内人さんも一緒に、
現実世界に戻ろ?」

「俺は……左の道に行かなきゃなんだ」

「そっちは、現実世界には行けないの?」




私の質問に、彼は答えなかった。

なんでも答えてくれたのに、
なんでこれだけ答えないの……?




「君はもう、大丈夫みたいだね。
自分の本音を、見つけられたから」

「っ、でも……また、
いっぱい辛い思いするかも」

「それでも君は、生きなきゃいけない。
俺の分まで。そして、幸せになるんだ」




貴方の分を、
なんで私が生きなきゃいけないのよ……。
ほんとこの人、わけわかんない。

わけわかんないけど、





「わ、私……どうしたらいい?」

「ゆっくり時間をかけて、1つ1つ、
小さな幸せを見つければいいんだよ。

世界は、君が思っている以上に広い。
進む道だってたくさんある。
君と合う人だってたくさんいる。

怖がらずに、前を向いて進んでごらん」

「わかった……私、がんばる。頑張ってみる。
……ねぇ、貴方とはもう会えないの?」

「さぁね。君次第かな」

「ほんとに、貴方ってよくわからない人ね」





視界が涙で塞がれたと思ったら、
案内人さんが指先で拭ってくれた。





「さぁ、もう着いたよ」

「……わぁ」






視界が開け、前を見ると、

そこは1面、青い海で広がっていた。
なんて綺麗な場所なんだろう……。

そして、少し奥には小さな船があった。





「はいこれ。君にプレゼント」

「?……なにこれ」

「乗船券」





案内人さんから、1枚の券を手渡される。





「俺はこの先は行けないけど、
君はその券で船に乗って。
そしたらきっと、望む場所に行けるよ」

「……案内人さん、ありがとう」





それ以外の言葉が見つからなくて、
そんなことしか言えなかったけど、
案内人さんは全部わかってくれたみたいに
優しく微笑んでくれた。


言いたいことが、たくさんあるはずなのに。

最後なのに、言葉が出てこない。


私は船に乗る。

大きく手を振ってみると、
案内人さんも返してくれた。

そして、船は出航した。

あぁ、最後だ。本当に、最後なんだ。


結局あなたのことは、何も知れなかった。

私はなにも、言えなかった。


また泣きそうになって、思わず俯く。





「ウミ!!!!!」






私の名前を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げると、
満面の笑みで手を振る案内人さんがいた。






「ありがとう!!!!!」
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