彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
 先生はまだ青白い顔で私を見た。私はその顔を見て初めて冷静になった。私は中学時代に大切な言葉をかけてくれた人が先生だったことですっかりその気になってしまっていたが、大切なことを見逃しているような気がしてきた。

 恋愛経験のない私はわかっていなかった。

 肝心かなめのことを言われていない、私も先生に自分の気持ちを言っていないことに気づいた。先生の私への気持ちはあるのだろうか?それは好きということではなくて、もしや同情?庇護欲?それとも中学時代の私への責任感?

 そういう言葉を先生からもらっていない。恋愛じゃないのかもしれないと気づいた。大体、今まで先生が恋愛をしているところを見たことも、聞いたこともない。

「先生には縁談がたくさんありましたよね。その幼馴染さんだけじゃありません」

「そう、そうなんだ。最近、食事に行くのも面倒でね。まあ、昔ほどいなくなったから大丈夫だと思うんだ。アメリカの投資顧問会社の社長は父の親友でね。だから、これさえ何とか出来れば……」

 やっぱりそういうことだったのね。私はため息をついた。目を瞑り、勇気を出して先生に言った。

「先生。私達結婚を決める前に一番大事な部分が抜けていませんか?わ、私達には……あ……愛がないんじゃ、ないですか?」

 声が震えた。先生はしばらく黙って私を睨んでいた。そして、聞いたことのないような低い声で呟いた。

「正直なところ、僕は愛というものがよくわからない。でも、特別にその人を大切に思う気持ちが愛だというなら僕にはあると思う……」

 私を大切に思ってくれているというのはよくわかる。でも大切に思うことが愛なの?私と同じくらい大切に思う人なら他にも先生にはいるんじゃないだろうか?

「先生が私を守る為無理に理由をつけようとしていませんか?……それが心配なんです」
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