【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
縁談から三週間後、話はとんとん拍子に進んで婚姻届が出された。
式は小規模だった。両家の身内だけ。
心彩は白いドレスを着て、玲央さんの隣に立った。
式の間中、玲央さんの表情は変わらなかった。誓いの言葉を口にする時も、指輪を嵌める時も、カメラに向かう時も、ほとんど同じ顔をしていた。
心彩は横目でそれを見ながら、不思議と落ち着いていた。
緊張していないわけではない。
これからこの人と、同じ家で暮らしていくのだ。知り合ってからまだ三週間、しかも実際に会ったのは見合いの一度きり。その相手と夫婦になるのだ。緊張しない方がおかしい。
でも、なぜか不安よりも、どこか静かな好奇心が勝っていた。
この人は何者なのだろうという、純粋な問いが、胸の中にあった。
披露宴の席で、ふと人垣の向こうに見知った顔が見えた。
月森郁斗さんだった。
写真で見たことのある顔だったが、実際に目にするとやはり華がある人だと思った。四十代とは思えない若々しい立ち姿で、隣には上品な微笑みの女性――おそらく妻の百合乃さんだろう。二人は自然に並んでいるのに、絵になっていた。そしてその中には、玲央さんの従兄らしい同年代の青年も座っている。
郁斗さんがふと視線を向けた先に、玲央さんがいた。
目が合った瞬間、郁斗さんがやわらかく微笑んだ。玲央さんは無表情のまま、小さく頷いた。
それだけだった。
でも心彩には、その短いやり取りの中に、長い時間が圧縮されているように見えた。言葉にならない何かが、二人の間にある気がした。