【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
昼は、冷蔵庫にあった食材で簡単なものを作った。
豆腐と葱の味噌汁と、ご飯だけ。料理は得意だが、初めてのキッチンで勝手がわからなかったが道具を探しながら作ったので時間がかかった。
お昼を初めて一人で食べた。今までは母と二人で食べていたし、少しだけ寂しい。
窓の外を見れば、音もなく遠くに広がる街が見えた。
不思議な感覚だ。
数日前まで全く知らなかった人が、交わることもなかった人が自分の旦那さまで、夕方にはここへ帰ってくる。
それは心細さとも、期待とも、違う何かだった。心彩はその感覚に名前をつけようとしたけど、うまくいかなかった。
午後は、持ってきたバッグの中の本を読んで過ごした。読みながら、時々視線が本から外れた。
窓の外の空を見たり、棚のガラスの器を見たりした。棚のガラスの器が、ずっと気になっていた。何も入っていない、ただのガラスの器。心彩は本を置いて、棚の前まで行って、器を手に取った。
軽くて薄いガラスで丁寧に作られた器だ。底に、かすかな凹凸がある。手作りのものかもしれない。花器だろうか?
花を活けたら似合いそうだと思った。
そういえば、ここに花を飾っていいかどうかまだ聞いていなかった。心彩はメモ帳を取り出して、質問リストに書き加えた。
マンションに花を飾ってもいいか。
書いてから、少し笑いたくなった。こんな細かいことまで、聞かなければいけないのかと。でも、聞かずに勝手にするのは、まだ早い気がした。