【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
夕食は二人で作った。
というより、玲央が主に作り、心彩が手伝う形だった。
玲央は料理が得意なのか、手際がいい。包丁の使い方が流れるようで、迷いがない。切る速度が速いのに、丁寧で、仕上がりが揃っている。
心彩が野菜を切ろうとすると、横に来て、無言でより良い切り方を示してくれた。言葉でなく、手の動きで。
心彩は少し驚いた。
教え方が、上手かった。言葉を使わずに、見せることで伝える。それは心彩が一番理解しやすいやり方だった。
口で説明されるより、見せてもらった方が、ずっとわかりやすい。心彩は長年そう感じてきた。でも多くの人は、まず言葉で説明しようとする。見せるより、言おうとする。
玲央は違った。
最初から、見せることを選んでいる。もしかして、意識してくれているのだろうか……耳が聞こえない心彩に合わせて。
でもそれを確かめる術が、今はなかった。
心彩は見せてもらった切り方で、もう一本、野菜を切った。玲央がそれを一瞥して、小さく頷いた。言葉ではなかったけれど、それは合格の意味だと、心彩には伝わった。
できあがったのは、シンプルな和食だった。
だし巻き卵、小松菜のおひたし、豚汁。
だし巻き卵の形が、完璧だった。均一に巻かれていて、崩れていない。
テーブルに並べながら、心彩はふと思った。
この人は、自分が思っていたよりずっと生活感のある人だ。キッチンに道具が揃っているところを見ればわかる。
最初の印象は近寄りがたいイメージを持っていたけど、でも朝はコーヒーを挽いて夜は出汁をちゃんと取って、完璧に料理を作る人だった。
会社での様子はわからないが、きっと副社長としても調香師として、完璧な仕事をする人なのだろう。でも家に帰れば、自分でご飯を作る。その落差が、心彩には意外で、でも好ましかった。