【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
心彩はメモ帳を取り、少し迷ってから書いた。
『一つ、聞いてもいいですか』
玲央が頷く。
『廊下の奥の部屋は、入ってはいけませんか』
玲央の表情が、かすかに動いた。驚き、というよりは、思考が動いたような顔だった。
この質問を予期していなかったのか。あるいは、予期していたけれど、こんなに早く来るとは思っていなかったのか。
しばらくして、玲央が書く。
【入っても大丈夫だ】
【明日、一緒に入りましょう】
一緒に。
心彩はその言葉を見つめた。
プライベートな部屋だから、一人では見せたくない。そういうことだろうか?あるいは、一緒に入ることに何か意味があるのだろうか。
玲央を見て心彩は頷いた。すると、玲央は書類に視線を戻した。
その後二人は、特に会話もなく、それぞれの時間を過ごした。心彩は本の続きを読み、玲央は書類を見ていた。
言葉のない時間。でも、不思議と気まずくはなかった。
それが、心彩には少し意外だった。
会話がないことが苦にならない人だと思っていたけれど、一緒にいることが苦にならない人でもあるのかもしれない。
心彩は本のページをめくりながら、時々玲央の方を見た。玲央は一度も顔を上げなかった。でも、心彩がいることを気にしている様子もなかった。
自然に、同じ空間にいる。
それは、思ったより難しくなかった。