【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
月森。
華道の世界にいれば、知らぬ者はいない名前だ。
月森流は創流から百五十年、現在の当主は月森郁斗。雅号を“月森耀壱”さんという。ドラマや映画の華道監修を手がけ、その端正な容姿と洗練された技で、華道界のみならず広く一般にも名が知れた家元だ。
数年前、生放送のテレビ番組の中で当時婚約者だった妻の百合乃に花束を手渡してプロポーズした場面は、今も語り草になっている。
その月森郁斗の弟が、目の前に座っている月森綾斗だった。
兄ほど華やかな知名度こそないが、アロマ工房を一代で築き上げた実業家として業界では一目置かれる存在だという話を心彩は断片的に聞いたことがあった。
月森綾斗が何かを言っている。口の動きが速く、心彩には読み取りきれなかった。
父が心彩を見て、ゆっくりと口を動かした。これは娘が耳の聞こえないことを知っているからこそのペースで、心彩は密かに感謝した。
「綾斗様のご子息と、縁談のお話がきている」