【連載中】エリート調香師は、初心な新妻を口説き落としたい。
挨拶が始まり両家の父親たちが口を動かしている。母が隣で、時折心彩に向けて手話で内容を伝えてくれる。形式的な自己紹介、家柄と事業の紹介、縁談への双方の意向確認。
心彩はその間、ちらちらと玲央を見た。
玲央は口を開いていなかった。父親の隣で、背筋を伸ばして座り、時折相槌を打つだけ。その相槌さえも、ごく最小限の動きで、表情はほぼ変わらない。
不愛想、という父親の言葉は、正確だった。
やがて両親たちは『若い二人でお話を』と言い残して、席を外した。
個室に、心彩と玲央だけが残された。
沈黙が落ちた。
心彩は小さく息を吸った。緊張が手のひらに滲む。でも、相手に気づかれたくなかった。
テーブルの上には、メモ帳とペンが置いてあった。
心彩が筆談できるようにと、母が事前に用意しておいてくれたものだ。心彩はそれを引き寄せ、ペンを持った。
『はじめまして。英紗心彩と申します。耳が聞こえないため、筆談か口話でお話しできればと思います。よろしくお願いします』