『Special Edition③』
怒涛の月末月初を何とか乗り切り、漸く定時で上がれるようになった3月7日。
コンコンコンと経理部のドアがノックされ、派遣社員の子がドアを開けると、そこにいたのは峻だった。
「部長、私そろそろ上がってもいいでしょうか?」
「今日は病院に行く日だもんね」
「……はい」
「ナイトがお出迎えしてくれたんじゃ、帰さないわけいかないわよね~」
すっかり帰り支度を整えて来た峻に軽く会釈した前島部長は、峻に優しく声をかける。
「病院が終わったら、美味しいものでも食べさせてあげてね。また暫く食べれなくなるだろうから」
「はい、そのつもりです」
「よい週末を~」
「お先に失礼します」
つぐみは他の社員にも挨拶をし、部署を後にした。
数年前から私服OKになったため、更衣室で着替える手間が無いのが有難い。
「タクシー呼んである」
「さすがね」
「忍はお義母さんに頼んであって、今晩は実家に泊まるって」
「また甘やかし放題だわね」
「初孫なんだから、そういうもんだろ」
つぐみの実家が車で30分ほどのところにあり、仕事が忙しい時の迎えと、その後の夕食やお風呂などをみてくれている。
専業主婦の母とまだ定年前で働いている父だから、忍がいくと溺愛が凄まじい。
ついこの間もスカイレンジャーの変身ロボットや限定フィギュアのセットを買いに、車で何軒もはしごしたらしい。
完全に孫の願いを叶えるために振り回されている状態。
峻はそれが老後の生き甲斐だろうから放っておけというが、自分ですら両親に殆ど強請らずにこの年まで過ごして来た。
私にできなかったことを孫にしているのだろう、と峻は言う。
それならいいんだけど。