🕊 平和への願い 🕊 【新編集版】  『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて。
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「ウクライナの復興支援は社会的意義とビジネスチャンスの両方を兼ね備えています」

 出社初日、休暇中にウクライナへ行った経緯を報告したあと、昨晩必死になって考えたプランを上司にぶつけた。
 ナターシャの気持ちはまだよく理解できていなかったが、ウクライナのために体を張って動いているのは間違いないし、戦争中の現地に行っているという厳然とした事実が背中を押していた。

「オデーサの港が封鎖されて穀物の輸出が止まっています。その結果、アフリカや中東の多くの国が食料危機に直面しようとしています。これを放置すると大変なことになります」

 ナターシャが活動しているオデーサの港と街を思い浮かべながら説得を続けたが、上司から色よい返事は返ってこなかった。

「黒海を封鎖されている以上、我々には何もできない。それに、陸上で輸送しようとしてもウクライナと周辺国ではレールの幅が違うからスムーズにはいかない。積み替えという大変な労力を強いられることになる。そのコストを考えると商売にはならない」

 事実だった。
 大手商社といえど、一民間企業が携わるには壁が高すぎるのだ。
 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
 なんとしても口説き落とさなければならない。

「戦後復興を(にら)んだ時、今はコストが合わなくても先行投資しておけば必ずあとで回収ができます。他の企業の腰が引けている今こそチャンスと捉えるべきではないでしょうか。それに」

「もういい」

 最後まで聞いてもらえなかった。

「商売においてリスクを軽視する考えは論外だ。先行投資といえば聞こえがいいが、戦時下という不確定要素がある以上、不良債権になる可能性は非常に高い。大事なのは投資回収モデルにおいて確率の高いリターンを得ることだ。君が言うような無謀なチャレンジではない」

 バッサリと切り捨てられた。

 残念ながら二の句が継げなかった。
 反論できるだけの緻密な計画はまだ立案できていないのだ。
 そんな状態でこれ以上粘ったら次はないだろう。
 不甲斐ない自分が嫌になって落ち込んだが、「ご指摘いただき、ありがとうございました」と殊勝(しゅしょう)さを声に表して上司の元を辞した。

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