偽装カップルの練習

 そして当日、仁志君がおばあちゃんの家に行く日になった。

「今日が勝負ね」
「うん。頼みます。大江さん」
「まあ気軽にね、カップル感を醸し出していこっか! まず手をつなご」

 手を仁志君に差し出し、彼が手をつかむ。恋人つなぎだ。
 いくら偽装とは言え、ドキドキしてしまう。ああ、練習しても恥ずかしさは消えないな。

 そして、二人でドアを開けた。

「おやまあ、仁志、よく来たねえ」

 そこには70台後半くらいの女性がいた。老眼鏡なのだろうか、眼鏡をかけた白髪のどこにでもいそうなおばあちゃんだ。

「こんにちは、仁志の彼女をやらせてもらっている大江沙也加です」

 そう言って頭を下げた。

「おやまあ、まさか仁志がこんなかわいい彼女を連れてくるとはねえ。驚いたよ」
「いえいえ、そんな」

 でも、うれしい。かわいいという言葉を伝えられてうれしくない人はいない。

「それで、二人共どこら辺まで進んだのかい?」
「「進んだ!?」」
「もちろん恋人関係よ」

 思ったより仁志君のおばあちゃんは鋭いらしい。

「もちろんハグはしました」
「キスは?」
「……まだです。私達そう言うの苦手なので」

 だって、そう言うのはたとえ恋人同士でも恥ずかしいし、そもそも偽装恋人だし。

「えーキスくらい見せてくれたったらいいのに」

 無茶言わないで。

「分かった」「え?」

 仁志君は私にキスしてきた。思わずドキッとする。

「おばあちゃんはこれが見たいんでしょ」
「まあ、合格ね。いいカップルになるわ」
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