深瀬くんが甘すぎる
「――っと、わたし、八代ひまりです。よろしくね」
とっさに口をついで出たのは、いたって普通の自己紹介。
なるべく愛想よく笑顔でを心掛けたけど、表情が引きつってなかった自信がない。
深瀬くんに話しかけたことで教室中の視線が集まって、ひどく居心地が悪い。
当の深瀬くんは怪訝そうな顔をしたままで、帰って来たのは「あっそ」というそっけない返事だった。
その一言だけを言って、彼はふいと視線を逸らした。
かなり冷めた返答だけど、拒絶の言葉ではない返事をしてもらえただけよかったと思うことにしよう。
そう何とかポジティブに考え直して、わたしも視線を前に戻そうとした。