深瀬くんが甘すぎる
「…けど、本気で嫌なら、取り消す」
少し言い淀んだ後、一言一言区切ってそう言葉を紡いだ深瀬くんの視線が真っ直ぐに刺さる。
「嫌、っていうか…なんでわたしなの?」
昨日からずっと疑問だった。なんでわざわざわたしを彼女役にしたのか。
だって、深瀬くんの容姿なら、昨日みたいな甘いマスクを被れば、たとえ偽物だとしても彼女になりたい女子なんていくらでもいるはずだ。
確かにあの日目の前に現れたわたしは、彼女にするにはちょうど良かったのかもしれないけど。
別にもっと確実に偽の彼女を作る方法はいくらでもあったと思う。
「…去年から、気になってたから。って言ったら信じる?」
「え…?でも、去年ほとんど関わりなかったよね?」
信じるも何も、今年クラスが同じになるまではろくに喋ったこともなかったはず。学校中で有名な深瀬くんのことを私が知っていても、その逆は考えにくい。
頭の上にはてなを浮かべる私に、深瀬くんは少し気まずげに頭をかいた。
「…笑うなよ」と言う前置きの後に、苦い顔をして口を開く。
「去年の文化祭、有志の展示に参加してて。その時の俺の作品に、1人だけ熱心に感想書いてくれた子がいて」
「それって…」