騙すなら墓場まで
だから、お父さんの秘書として紹介された伊月さんにドギマギしてしまったのは不可抗力というやつだ。
初めてお会いした伊月さんは絵本から抜け出してきた王子様のようだった。
眉や瞳は力強く、形の良い鼻筋から厚めの唇までのラインは彼をとても華やかに見せていた。細く引き締まった体躯からは自信が溢れていて、細くて平均的な身長の私は気圧されてしまった。
そんな私を気遣うように、貴公子もかくやと言わんばかりの笑顔を向けてくれた。
「お初お目にかかります、得留伊月と申します」
穏やかなテノールが耳から全身に染み込んで、その分だけ私の頬が熱くなってしまうのを感じた。挨拶をしないと失礼だとわかっているのに、口の中が乾いて舌が上手く動かない。
「美節、どうかしたかね?」
あまりの状況に、お父さんが咳払いと一緒に挨拶を促した。ああ、やってしまった。このままでは挨拶もできない失礼な娘だと思われてしまう。