騙すなら墓場まで
「ありがとうございます。行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
正恵さんに見送られ、私はレジデンスの出入り口で待つことにした。萩野さんが来るまでにガラスを使い自分の姿をざっと確認する。
抜け感のある髪型に、シンプルなシャツワンピース。チョコレート色のハンドバッグに、ヒールが低めのパンプス。
本当にこれが私……?
改めて自分の現状に目眩がする。環境の高低差に耳鳴りまで起こしそうだった。
「得留さん」
萩野さんの声がする。伊月さんはここにはいないはずなのに。
「得留さん、大丈夫?」
肩を叩かれハッとする。いつの間にかガラスに手を当てながらしゃがみ込んでいた。
私は早急に立ち上がり両頬を両手で勢いよく挟んだ。小気味良い音がして、視界が明瞭になった気がする。
「具合悪い? 今日は止めておく?」
オロオロとスマートフォンをバッグから取り出した萩野さんを制して、私はキッパリと宣言した。
「大丈夫。行きましょう」