ヒュントヘン家の子犬姫~前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています~

 自身を崇拝でもするように見あげるマルティナを、シャルロットはじいっと見つめていた。

 許すなんて高慢だ。こんなの両成敗に過ぎない。
 マルティナはシャルロットに人と視線を合わすことを教えてくれた恩人だ。
 けれど、シャルロットを傷付けたのもマルティナだったから。

 だからシャルロットがしたのは、マルティナに手を差し伸べる行為ではなかった。

 マルティナは感謝しただろうか、そんな目で見ないでほしい。
 だってこんなのはただの八つ当たりだった。

 シャルロットは脆弱で、愚かで、もの知らぬただの少女に過ぎない。

 アルブレヒトと一緒にいたマルティナに、あの一瞬、シャルロットはたしかに嫉妬したのだ。
 それを押し込めて、祈るみたいにまごついた言葉を繰り返して──……。
 ヴィルヘルムを見て、マルティナを見て──、アルブレヒトを見た。

 その目がどれも、シャルロットに知られてはならぬことを隠していると、唇よりずっと正直に語っていたから、シャルロットはようやく冷静になれたのだ。

 マルティナは、アルブレヒトを好きではない。そう確信した。

「わたしの、ため、なのだわ」

 呟いた言葉は、侍女たちに世話を受けているマルティナには届かない。シャルロットは侍女のアンナに付き添われて、ソファに座っていた。
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