キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
晴さんはロビーで待っててくれるとのことで、私は急いでバッグを持ち下へと降りた。

「晴さん、お待たせ!」
「ううん。こっちこそ仕事で待たせちゃってごめん」
「そんなことない。嬉しい」
「……小夏、何かあった?」

もう流石としか言えない。私は顔を洗ったし、さっきまで泣いていたことなんて分かるはずないのに。

「何にもないよ? さっきまで寝てたから寝ぼけた顔でもしてるかな」
「そういうのとは違う感じだけど。今日はリリーバー使った?」
「うんうん使ってない。」
「とりあえず元気ならよし」
「うん!」

車に行くぞと促されて、晴さんと並んで車へと向かう。
心の中がもやもやと曇っていたり泣いたりしても、晴さんの顔を見たら本当に全部吹っ飛んで元気になった。
不思議だなぁと思う。
車の中に乗り込むと真面目な顔をして晴さんがこちらを覗き込んでいた。
あ、医者の顔に戻ってると思った。

「小夏、嘘はやめて。やっぱり少し様子がおかしいから。薬は飲んだ? 服の上からでいいから胸の音だけ聴かせて」
「薬も飲んでるよ。今日はこれからお出かけじゃないの? また病院なの?」
「本当にお出かけしたいけど、心配なんだよ。小夏はまだ喘息のコントロールが出来てない。無理させたくはないんだ」

私が黙って頷くと、晴さんは後ろに置いてあった自分のバッグから聴診器を取り出した。
車で診察とか何か不思議な感じだと思ったけど、早く終わらせたいから晴さんに促される前にひたすらに大人しく深呼吸をした。

「正直なところ、かなり良くない。中止と言いたいけど。何となく今回は原因が分かるから。小夏、多分泣いたよね?」
「え、なんで分かるの?」
「前に泣きながら倒れた時と同じ音をしてるから」
「そっか……」
「何かあった?」
「今はまだ……言いたくないの。晴さんのことを信用してないとかじゃなくて、自分でも整理できていないことだから」

晴さんはため息をひとつ吐いた。
きっと、全部話して欲しいんだ。
また私のせいで悲しくさせてしまった。

「分かった。無理して言わなくていいから。とりあえず今すぐこの薬飲んで。今までで一番作用が強い薬だ。これ以上の薬はもう出せない。小夏の身体の状態はそれくらい危険なレベルなのを理解して欲しい」
「分かった」

手渡された薬と水を黙って受け取り飲んだ。
晴さんに気分は大丈夫か聞かれたので、頷く。

「小夏、辛いよな。ストレスも喘息には良くない。押さえつけることだけが治療じゃないから、今日はこれから出かけようか?」
「え……いいの!?」
「その薬と僕がいれば多少は何とかなる」
「うん!」
「その代わり、辛くなったらすぐ言うこと。溜め込まないこと。あと、笑って。小夏」
「うん……!」

その時、私は今にもきっと泣き出しそうな顔で笑っていたと思う。
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